身の回りにうつ病の人が増えているけど、そもそもうつ病ってどんな病気なの?
そんな疑問に答える記事です。
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うつ病のココロとカラダの症状

うつ病は、精神的症状と身体的な症状の両方が現れることのある「気分障害」と言われる病気の一つです。
精神的な症状
うつ病と診断される目安として、次のような症状のうちいくつかが2週間以上ずっと続く、というものがあります。
- 悲しい
- ゆううつな/沈んだ気分
- 何も興味がわかず楽しくない
- 何をするのもおっくう
- 死にたくなる
身体的な症状
長年「うつは心の病気」と言われてきたため、身体症状が主体となる場合は、うつ病とは気づかれないことも多くあります。
次のような症状が長く続く場合も、うつ病の可能性があります。
- 食欲がない
- 体がだるい
- 疲れやすい
- 性欲がない
- 頭痛や肩こり
- 動悸
- 胃の不快感
- 便秘がち
- めまい
- 口が渇く
身体的な症状が主で、精神的な症状が見られないうつ病を「仮面うつ病」と呼んだりします。
ゆううつな気分と抑うつ状態の違い
どんな人でも、一時的に憂鬱な気分になることはあります。
でも、多くの場合の憂鬱な気分は一時的なものです。時間がたてば元気が戻ってきます。楽しいことがあれば気分も晴れるし、気晴らしするのが有効だったりします。
一方で、うつ病の場合はそうはいきません。数週間、数ヶ月にわたりひどい落ち込みが続いたり、何も手につかなかったり、不眠や体調不良に悩まされたりと、非常につらい症状がでてきます。
次の表は、「ゆううつな気分」と「うつ病の抑うつ症状」の違いを表したものです。
「ゆううつ」な気分 | うつ病の抑うつ症状 | |
---|---|---|
うつ状態の程度 | 軽度 | 重度 朝起きられないなど |
うつ状態の持続時間 | 数週間におよぶことは稀 | 数週間以上 |
うつ状態の原因 | 原因がはっきりしている | はっきりしない |
うつ状態の変化 | 楽しいことがあれば気分が晴れる | いつも気分が重い |
日常生活 | 仕事・家事はこなせる | 何も手につかない |
1日の気分変化 | 変化なし | 朝方に調子が悪く、夕方は良くなる |
人間関係 | 変化なし | 誰とも会いたくない |
趣味などへの関心 | 趣味に取り組める/楽しいと思える | 興味・関心がなくなる |
うつ病は誰でもなる病気

うつ病の患者数は近年増加しており、16人に1人が生涯にうつ病を経験していると推定されています。学校で1クラス30人いるならば、そのうち2人はうつ病にかかる可能性があるのですから、結構高確率です。
うつ病患者の日本における割合
日本では、これまでにうつ病を経験したことがある人は100人に3~7人という割合で、決して他人事ではない病気といえます。
うつ病患者の世界における割合
WHOの報告では、全世界の人口の3〜5%がうつ病だと推定されています。
国によってはさらに多くの人が一生に一度はうつ病にかかるという調査報告を出しているところもあります。
潜在的なうつ病患者はもっと多い?
近年では、うつ病の存在が知られるようになってきたため、病院を受診する人は増加しています。
その一方で、現在でも、うつ病が疑われる人の8割は病院を受診しないとも言われており、潜在的なうつ病人口はさらに大きい可能性もあります。
うつ病の分類

① 症状の現れ方による分類
うつ状態だけが起こるものを「単極性うつ病」、うつ状態と躁状態の両方が起こるものを「双極性うつ病」または「双極性障害」と呼びます。
以下の記事では、双極性障害を解説しています。
② 重症度による分類
症状による仕事や日常生活に現れる支障の程度による分類です。
「軽症」は、仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションに生じる障害はわずかで、周囲の人には気づかれないことも多いです。一方「重症」になると、仕事や日常生活に困難が生じてきます。
③ 初発か再発かによる分類
「単一性」か「反復性」かという分類です。反復性の場合、再発防止が重要です。
④ 特徴的な病型による分類
次のような分類があります。
- 「メランコリー型」
- 「非定型」
- 「季節型」
- 「産後」
このうち「メランコリー型」は、典型的なうつ病と言われることの多いタイプです。一方で「非定型」の特徴は、良いことに対しては気分がよくなる、食欲は過食傾向で体重増加、過眠、ひどい倦怠感、他人からの批判に過敏、などがあります。
うつ病の原因は脳内の神経伝達物質の不具合

うつ病の理解をするには、脳の中の活動をすこしだけ知る必要があります。
私達の脳の中では神経細胞から神経細胞へさまざまな情報が伝達されます。その伝達を担うのが「神経伝達物質」というものです。なかでも「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といわれるものは、人の感情に関する情報を伝達する物質です。
次に示すような様々な要因によって、これらの物質の機能が低下し、情報の伝達がうまくいかなくなることでうつ病の状態が起きていると考えられています。
①環境要因
もっともきっかけとなりやすいのが、この環境を要因とするものです。たとえば次のようなことがあげられます。
- 家族や親しい人の死や離別
- 仕事/財産などを失う
- 人間関係/家庭内のトラブル
- 職場での昇格/降格や家庭での結婚/妊娠などの大きな変化
また心配や過労・ストレスが続いたり、孤独や孤独感が強くなるなど環境に影響されたり、将来への不安を感じたりしたときにかかりやすい病気です。
②個人の性格要因
うつ病の発症原因はさまざまな要因が重なっており、うつ病になりやすいかどうかが、性格の違いで決まるわけではありません。
しかし、ある程度「なりやすい性格」はあると言われています。たとえば、次のようなタイプの性格はうつ病になりやすい傾向があるようです。
- まじめ
- 几帳面
- 責任感や正義感が強い
- 仕事熱心
- 集中力がある
- 秩序を重んじる
- 規則・規律を守る
- 気配りができる
一方で、最近はこういう性格にはあてはまらないようなうつ病の患者さんも多くなっており、「新型うつ病」などと言われるようになっています。
以下の記事では、いわゆる「新型うつ病」の解説をしています。
③遺伝的要因
うつ病そのものが遺伝することはありません。
うつ病の「素質」のようなものは遺伝する可能性がありますが、それだけでうつ病になるわけではないので、家族にうつ病患者がいるからといって、悲観する必要はまったくありません。
④慢性疾患
身体が抱える慢性疾患も要因の一つになります。
うつ病にならないために

うつ病の要因がわかったところで、どうすればうつ病にならずに済むでしょうか?ここからは、うつ病を防ぐための方法を4つにわけて説明します。
①ストレスがたまっていないかチェックする
ストレスが高まってきたり、蓄積したりすると、人にはさまざまな変化が現れます。たとえば、次のようなものです。
- 睡眠の変化
- 食欲・体重の変kな
- 疲労がとれない
- ゆううつ感
- おっくう感
- 焦り・不安感
- 遅刻・欠勤
- 出社拒否
これらを早期に察知し、必要に応じて軽減を図ることは、うつ病の予防のためにとても重要です。
しかし、ストレスによる変化には、本人が自覚しにくい場合があります。周囲の人からの「最近、疲れてるんじゃない?」「無理してない?」などの声がけに耳を傾けることも大切です。
②仕事のやりかたを見直す
仕事を一人で抱え込まない
仕事のストレスは、自分で軽減できるものと、そうでないものがあります。
次のような工夫・努力をすることで、少しでもストレスを減らすようにしたいものです。
- 時間の使い方/仕事手順の見直しをして効率化する
- 定期的にリフレッシュを図る
- 仕事を上手に周囲の人に頼む
- 手に余る仕事はうまく断る
思考パターンを見直してみる
義務感が強く、仕事熱心な人や、完璧主義で几帳面な人、他人への配慮を重視しする人は、比較的うつ病になりやすい傾向にあります。
こうした性格の特性は、多くの場合非常にすぐれたものです。しかし、うつ病になりやすいという意味ではマイナスにもなりえます。
同僚や上司に相談する
自分だけでは解決できない事柄については、上司や同僚に相談してみましょう。直接的に問題を解決できなくても、気分が晴れることもあります。
③専門家に相談をする
ストレス反応がすでにでているようであれば、専門家に相談しましょう。企業の産業医に相談してもよいですし、企業によっては、外部のメンタルヘルスサービス機関に業務委託をして、無料の電話相談やメール相談などの相談窓口を設置しているところもあります。
④情報を得る
企業内でもメンタルヘルスの重要性は高まっており、メンタルヘルス・マネジメントの研修などをおこなっている企業や、健康保険組合なども多くあります。そういった場で、最新の情報を得ることも、自身を守るために重要なことです。
うつ病の治療

うつ病の場合、治療の目標は「完治=完全に治る」というよりは、症状がなくなる「寛解」と言われます。
「寛解」とは「全治とまでは言えないが、病状が治まっておだやかであること。」です。
4つの柱による治療
うつ病の治療は、主として以下の4つの方法で行われていきます。
- 薬物療法
- 休養
- 精神療法
- その他
中でも、一般的なのが「薬物療法」と「休養」です。
薬物療法
うつ病の治療においてメインとなるのは「抗うつ薬」を使った治療になります。抗うつ薬にはさまざまな種類があり、副作用の出やすさなどに違いがあります。
また、症状に合わせて「抗不安薬」「睡眠薬」等の薬を併用することが一般的です。
休養
うつ病を患っている状態は、心身ともに疲れ切っている状態といえます。要するに、エネルギーぎれの状態です。
回復するには、まずはとにかくしっかりと休養を取ることしかありません。薬物治療は、症状を抑えてくれますが、根本的な心身の疲労を回復してくれるものではないのです。
精神療法
うつ病治療の基本は、前述した薬物治療と休息がメインです。さらに、それにあわせて患者さんの心理面にアプローチするのが「精神療法」です。
うつ病の原因はさまざまですが、性格や社会的要因が折り重なっておこると考えられています。そういった、性格、考え方、社会的な要因などは薬でどうにかなるものではありません。この部分を改善していくのが「精神療法」の目的となります。
その他
うつ病の治療には上記のほかにも下記のようなさまざまな治療法があります。
運動療法
心臓に負担にならない程度の有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)を行う治療法です。
高照度光療法
非常に明るい光(2500ルクス以上)を1日1〜2時間程度照射する治療法です。
修正型電気けいれん療法(m-ECT)
全身麻酔と筋肉けいれんを抑える薬を使用して、脳に数秒間の電気刺激を与える治療法です。
経頭蓋磁気刺激法(TMS)
特殊な機械で磁場を発生させ、そこで生じた誘導電流で神経細胞を刺激する方法です。
うつ病の発症から回復までの流れ

うつ病は回復までに時間がかかる病気です。どのくらいで回復するかも人によって大きく異なります。
ここでは、一般的な経過と目安期間を解説します。
急性期(診断~3カ月程度)
十分な休養と適切な薬物治療をおこなうことで、1〜3ヶ月ほどでうつ症状が軽くなることが一般的です。
薬物治療では、抗うつ薬を中心にまずは少量から開始し、徐々に増量して治療に必要な量を処方されます。抗うつ薬の効果があらわれるのは時間がかかるのが一般的ですので、あせらずに継続することが大切です。
そして、なにより重要なのは十分な休養です。医師の指示に従い、ストレスの原因から離れて身心を休めることに専念しましょう。
回復期(4~6カ月以上)
急性期をすぎて、症状が軽快してきても安心してはいけません。
回復期には、症状が波のように上がっては下がりを繰り返します。調子のいい日が続いたからといって治療を勝手に辞めてしまうと症状が悪化する恐れもあります。
生活リズムを整え、再発防止のための方法を医師と相談しながら、焦らずに社会復帰を目指しましょう。
再発予防期(薬物治療:1~2年)
回復期をすぎて症状がほぼ安定してきても、まだ油断してはいけません。
以下でも述べますが、うつ病は再発しやすい病気です。再発予防のために1〜2年は薬物治療を継続し、状態を維持する必要があります。
薬を止める際には、医師の指示に従いましょう。急に薬をやめると、めまいやふらつき、吐き気、嘔吐、倦怠感などが生じるおそれがあります。
治りにくいケース「治療抵抗性うつ病」とは?
人によっては、十分な治療を行っても症状が改善しなかったり、再発しやすかったりというケースがあります。
こういったケースを「治療抵抗性うつ病」などと呼びます。「治療抵抗性うつ病」の原因は不明ですが、抗うつ薬に抗精神病薬を組み合わせた治療法で効果が認められています。
うつ病は再発する病気

50%〜60%の人が再発する
うつ病は適切な治療を続ければかならず治ります。しかし、一度治っても50%から60%の人は再発すると言われています。
再発を繰り返すほど、重症化しやすい
再発を繰り返す人ほど再々発の確率が高くなり、症状も重症化しやすい傾向にあります。
2回目のうつ病発症を経験した人は、再発の確率が75%以上になり、3回目になると約90%の人が再発すると言われています。
再発する要因
再発しやすい場合には、ある程度傾向があります。たとえば、次のような場合は、再発のリスクが高くなります。
①薬による治療が不十分なうちにやめてしまう
うつ病の薬は、症状がよくなっても一定期間飲み続ける必要があります。自己判断で、急にやめてしまうと再発(再燃)のリスクがあります。
②環境の大きな変化/生活リズムの変化
急激な生活環境の変化は、再発のリスクを高めます。
③仕事への復帰が早すぎる/リハビリ不足
十分に休めていないのに仕事に復帰したり、慣らし運転期間もなく急に元通りの仕事をしようとしたりすると、再発のリスクは高まります。
④無理をする
休職等をしていた場合、その期間を取り戻そうと頑張りすぎるのはNGです。疲労を蓄積させて、再発のリスクが高くなります。
うつ病の再発を防ぐ3つのポイント

薬は一定期間飲み続ける
うつ病の薬は、症状が良くなったからといってすぐに止めてしまうと症状が再燃してしまうことがあるため、一定期間は薬を飲みつづける必要があります。
発症のきっかけを忘れない
一番最初に、自分がなぜうつ病を発症したのかはしっかりと覚えておきましょう。そして、次に同じような状況になることを避けたり、事前に備えをして、うまく乗り越えたりできるようにすることが大切です。
自分の性格を知る
とくに真面目な人や、完璧主義な人ほどうつ病になりやすい傾向があります。自分の性格を知っておくことで、事前にうつ病にならないような対策を練ることができます。
うつ病の相談窓口

保健所
最も身近な相談窓口としては、地域の保健所が挙げられます。
医師などが治療や社会復帰に関する相談にのってくれます。定期的に相談会などをおこなうこともあるので、自治体の窓口や保健所の窓口などで確認してみると良いでしょう。
精神保健福祉センター
うつ病など心の病気がある患者さんの自立と社会復帰をめざす地域医療の中核的な組織です。
かかりつけの医師
病気の症状として相談しやすいのは、かかりつけの医師でしょう。
内科の医師であっても、普段と違う症状があれば、精神科・心療内科を紹介してくれることもあります。
(社)日本産業カウンセラー協会
企業などで働く「産業カウンセラー」の団体です。
「働く人の悩みホットライン」を開設し、患者さんやその家族、企業などからの相談に応じています。
名称 | (社)日本産業カウンセラー協会 |
所在地 | 〒105-0004 東京都港区新橋6-17-17 御成門センタービル6階(本部) その他、全国に支部あり |
URL | https://www.counselor.or.jp/ |
労働基準監督所・ハローワーク・労働局
仕事上で不当な扱いをうけている場合などは、地域の労働基準監督署やハローワーク、都道府県の労働局に相談するのが良いでしょう
いのちの電話
自殺防止を目的として活動している相談機関です。
電話だけでなく、インターネット相談も受け付けています。
名称 | 一般社団法人日本いのちの電話連盟 |
URL | https://www.inochinodenwa.org/lifeline.php |
まとめ
- うつ病の代表的な症状は「ゆううつな気分」などが2週間以上続いていること
- 「だるい」「吐き気」などの身体症状がでることも多く、周囲から見てわかる変化も多い
- うつ病は誰でもなる病気だが、環境や性格による影響も大きい
- うつ病の治療は、休養、薬物療法、精神療法などを組み合わせておこなう
- うつ病の治療には時間がかかる
- うつ病は再発しやすい病気